@phdthesis{oai:ynu.repo.nii.ac.jp:00005596, author = {有吉, 亮}, month = {Sep}, note = {国土交通省の調査によれば、移動手段としての自家用車の利用率は経年的に増加を続けている。特に地方都市圏(三大都市圏以外の地域)では、公共交通サービスの密度が相対的に低く、日常生活における自家用車の利用は必要不可欠なものとなっている。また、第三者の運転によって自家用車を利用する、すなわち送迎や相乗りを利用する機会は加齢に伴って増加する傾向があり、地方都市圏における75 歳以上の高齢者の日常的な移動についてみれば、送迎および相乗りを利用する割合は全体の約20%に達する。さらに、そうした行動における自家用車の運転は、多くの場合に配偶者や子などの同居家族が担っているとの報告がある。その一方で、核家族化の進展に伴って単身もしくは夫婦のみの高齢者世帯は増加を続けており、上記の世帯に属する高齢者の人口比率は2009 年に50%を超えている。したがって、将来的に送迎を頼める相手が近くにいない高齢者の割合も高まると推察され、持続可能な代替交通手段の確保が喫緊の課題といえる。また、子どもの通学や習い事のための移動手段として、自家用車による送迎が利用される機会も増加しており、ある地方都市圏では、教育施設を目的地とする通学目的の自家用車のトリップ数が過去16 年間で約4 倍に増加した。このような移動需要の変化は、学校、幼稚園、保育所などのトリップ目的地における、生徒や児童の乗降を目的とした自家用車の増加として顕在化し、自家用車用の駐車場や乗降施設がない施設では、周辺道路における路上駐停車の問題につながる可能性がある。実際に、学校への生徒の送迎を目的とした自家用車の集中が、朝ピークにおける道路混雑の原因となっているとの報告もある。上述のように、自家用車を利用した送迎行動に関する交通政策上の課題として、自動車の利用に制約を受ける層の移動手段の確保と、送迎を目的とした車両の交通処理が挙げられる。前者は移動ニーズの視点から、後者は交通の実現象の視点から、それぞれ送迎行動をとらえたものである。上述の政策課題に対しては、実効があり、かつ財政的にも無駄のない政策の立案が望まれるが、そうした検討を客観的に担保し得るのは、送迎に関する移動ニーズや交通現象の実態把握と、実態に即した需要予測、および需要予測に基づく政策代替案の評価であるといえる。しかしながら、現状の交通計画実務において用いられている交通需要の現況分析手法および需要予測手法では、自家用車による送迎行動を明示的に評価することは困難であり、これは、利用可能なデータの制約に関する問題や、送迎行動のモデル化の困難性に起因する。交通需要の現況分析や需要予測モデル構築の基礎データとして用いられるパーソントリップ調査は、個人毎の交通行動の把握が目的であり、送迎のように複数の個人が同時に関与する行動の分析に直接利用可能な仕様にはなっていない。また、行動分析的な観点でみIIれば、自家用車による送迎は相互作用を介した集団の意思決定行動であり、そうした現象をつまびらかに描写するモデルの構築が容易でなく、信頼性や一般性の点で実務への適用段階にはまだ遠い。このように、現状では実態把握、需要予測、政策代替案評価のいずれの場面においても、移動ニーズとしての送迎行動の位置付けは、不明確であると言わざるを得ない。一方、交通の実現象としての送迎行動については、交通結節点の端末交通手段としての送迎(キスアンドライド)を対象とした調査・研究がこれまでの中心であり、送迎目的の自家用車に配慮した施設整備の計画指針も整備されている。しかしながら、学校や保育所などのトリップ目的地への直行型の送迎に関しては、わが国では交通政策上の問題としてほとんど着目されてこなかったため、現況分析のための手法提案やその適用事例の蓄積がないのが現状である。そこで、本研究では既存の都市圏パーソントリップ調査のデータを活用して、送迎に関する移動データを同定する手法を提案する。また、得られたデータについて、現況分析および交通手段選択モデルへの利用可能性を評価し、手法適用上の課題を明らかにする。さらに、実現象としての送迎行動のアウトカムを定量的に評価するための手法を提案し、その手法を事例研究に適用することで、実証的な知見の蓄積に貢献する。以上により、移動ニーズおよび交通の実現象としての送迎行動の政策的な位置付けを明らかにすることを目的とする。上述の分析に先立って、第3 章では自家用車による相乗り行動をその移動形態や動機の視点から分類し、相乗りは同行と送迎に、送迎はさらに部分送迎と純送迎に区別できることを示した。これまで自動車への同乗というカテゴリで非明示的に扱われてきた送迎行動の定義と位置付けを明確にし、移動ニーズとしての送迎を体系的にとらえるための素地の整備に貢献した。第4 章では、パーソントリップ調査のデータから、上述の定義に対応する送迎の移動データを同定して抽出し、送迎行動の実態が都市圏スケールで分析可能であることを示した。この分析の意義は、従来のパーソントリップ調査体系において位置付けが不透明だった送迎行動が、既存データの活用によって明示的に評価可能であることを示した点にある。第6 章では、交通計画実務において交通手段分担の評価に用いられている従来のモデルの構造を細分化し、送迎を明示的に扱う交通手段選択モデルを構築した。このモデルには、第5 章での送迎の実施要因に関する分析で得られた知見に基づき、世帯内の相互作用の代理指標として世帯状況に関する説明変数を導入した。また前述の分析で同定した送迎の移動データをモデル推定の基礎としている。このモデル分析により、従来の理論的枠組みと現実的に取得可能なデータの範疇で既存モデルの精緻化が可能であり、自家用車による送迎を独立した交通手段として明示的に取り扱えることが示された。こうした交通手段選択モデルの適用により、今後のパーソントリップ調III査体系において、送迎や同行の需要に対応する政策措置を、定量的な裏付けをもって計画代替案に位置付けることが可能になると考えられる。第7 章では、これまで交通現象としての側面が着目されることがなかった、学校への送迎行動について分析し、学校における送迎車両の存在が、他の道路交通の円滑性の低下に有意な影響を及ぼす可能性があることを示した。この分析の成果は、上述の影響の評価手法の一例とその適用プロセスを示したのと同時に、事例研究として典型的な道路および交通の状況下における実証的な知見を蓄積した点にあると考えられる。以上、本研究では自動車の相乗り行動として扱われ、これまでその位置付けが不透明であった送迎行動を、体系的な定義に基づいて同定し、明示的かつ定量的に評価した。本研究の分析を通じて明示された送迎行動の実態は、近距離の通勤通学手段のあり方、高齢者夫婦の持続可能な代替交通手段の確保、交通結節点以外の施設における送迎車両のマネジメントといった政策課題に対応している。計画サイドとしては、本研究で提案したような手法によって評価可能となる、従来よりもきめの細かい自家用車の需要に目を向け、必要な政策を講じていかなければならない。そして政策の計画策定プロセスにおける評価手法も、上述の細やかな需要に対応したものであることが求められるが、本研究ではその対応が従来の理論的枠組みの下で可能であることを示している。本研究で提案した送迎選択行動の評価手法や送迎車両の影響評価手法には、捨象あるいは考慮しきれなかった要素が存在し、他の交通手段の需要との比較可能性という意味で、まだ実用に耐えうる精度を有してはいない。しかしながら、交通手段選択行動モデルにおける心理的なコスト指標の導入の必要性や、送迎車両の影響評価における交通安全指標の追加など、今後取り組むべき課題の方向性についての示唆は与えられたといえる。}, school = {横浜国立大学}, title = {自家用車を利用した送迎行動の評価に関する研究}, year = {2014} }