@phdthesis{oai:ynu.repo.nii.ac.jp:00004919, author = {三浦, 剛}, month = {Sep}, note = {タイヘイヨウサケ属には、河川で生まれ河川と海の間での通し回遊を行う降海型と、終生を河川内の一定区域内で過ごし通し回遊は行わない河川型が存在する。このうち降海型は、河川で成長した後に、銀化変態と呼ばれる生理的変化に続き降河行動を発現し、群れとなって河川を降る(降河回遊)。降河行動の後に海域進出した降海型は北洋を回遊して成長し、性成熟とともに生まれた川へと回帰し、母川内を遡上行動により産卵域まで遡上する(遡上回遊)。種によっては、降河回遊を示すが海域進出はせず、河川中下流域で成長した後、上流域へ向けた遡上回遊を行う個体も存在する。本研究では降海型と河川型の境界は河川を降河および遡上するか否かとし、上記のような個体も降海型と定義した。本属の中で系統的に起源に近いサクラマスOncorhynchus masouなどでは、降海型と河川型の種内多型がみられ、系統的により後から派生したシロザケO. ketaなどに比べ、降海型の降河回遊期までの河川生息期間が長い傾向にある。そのため我が国のサクラマス降海型の孵化放流事業は、放流種苗の全魚が降海型とならない、降河回遊期までの減耗が大きいなどの問題を含んでおり、資源量の増加に結びついていない。この問題の解決に向け、人工的に生育させた降海型種苗を降河回遊期に放流する技術(スモルト放流)が採用されているが、技術改善の余地は大きい。また、資源量を維持していくためには天然繁殖保護も重要とされ、これらの方策を組み合わせる必要がある。これらの背景から本研究では、タイヘイヨウサケ属のうちサクラマスを含む河川への依存度が比較的高い種において、降河および遡上行動の調節機構を解明することを目的とした。前者はスモルト放流に関して、減耗を抑え種苗を速やかに降河させる放流技術に寄与することが、また後者は天然繁殖保護に関して、親魚遡上の促進に寄与することがそれぞれ期待される。第1章では、内分泌学的手法を用いて降河行動の調節機構を探索した。サクラマスでは、ストレスホルモンの一種コルチゾルの投与により降河行動が促進されることが報告されている。また、甲状腺ホルモンの一種サイロキシンも行動発現に関与することが示されている。これらのホルモンの変動を指標に、降河行動の発現に関わる環境要因を調べた。2005~2010年に岩手県気仙川にて、サクラマスの経時的な採捕を行うとともに、種々の外部環境因子を観測することで、本種の血中コルチゾル、サイロキシン量に影響を及ぼす環境要因を探索した。結果、いずれのホルモン量も、降河回遊期の降海型が、同時期の河川型および降河回遊期以前の夏、秋の個体よりも高い値を示した。また降海型のコルチゾル量は、低気圧、降雨、水温低下といった刺激に応じて上昇すると示唆され、これらの中では水温低下刺激が最も重要な刺激と考えられた。サイロキシン量は、コルチゾル量とは異なり累積降雨量の増加、高気圧などに応じて上昇すると考えられた。各ホルモンの上昇が引き起こされるこれらの環境下で、降河行動が促進される可能性が考えられた。次に野外採集の結果を受け、河川内で起こりうる大きさの水温低下刺激が、①コルチゾル上昇を引き起こすか否か、②降河行動を引き起こすか否か、および③コルチゾルとサイロキシンの降河行動への関与、を検証する水槽実験を行った。結果、①サクラマス0+年魚では1.5 ℃、O.mykissの降海型スチールヘッドトラウト2+年魚では1.0 ℃の水温低下刺激に対して血中コルチゾル量が上昇した。一方で、O.mykissの河川型ニジマス1+年魚では1.0 ℃の水温低下刺激に対する血中コルチゾル量の上昇は確認されなかった。②サクラマス0+年魚では2.0 ℃、スチールヘッドトラウト1+年魚では1.5 ℃、ギンザケO. kisutch0+年魚では1.0℃の水温低下刺激によって、それぞれ回流水槽内での降河行動が誘起された。③ギンザケ0+年魚のコルチゾル投与魚およびサイロキシン投与魚は、水温低下刺激に関わらず降河行動を発現した。これらから、本属の降河行動は水温低下刺激によるコルチゾル上昇が引き金となって発現すると示唆された。さらに、コルチゾルに加えサイロキシンにも、降河行動を促進する働きがあると考えられた。他方、降河行動発現に対する個体間作用などの内的要因の関与について調べた。魚類の個体間作用は環境水を介した間接的な接触によっても起こるとされる。そこで、個体間作用が降河行動に影響を及ぼしているか否かを解明する端緒として、回流水槽内にサクラマス0+年魚を収容し、年長魚(1+年魚)の飼育水、コルチゾル溶存水、サイロキシン溶存水を流した際の行動を観察した。結果、いずれによっても実験魚の降河行動が誘起され、サイロキシン溶存水の場合には血中サイロキシン量の上昇も確認された。これより、年長魚の存在や、溶存コルチゾル、サイロキシンを媒体とした個体間作用が、降河行動発現に関与する可能性が考えられた。第2章では、なぜ降海型のみが降河行動を発現するのかについて考えた。第1章から、水温の低下が降海型の降河行動を引き起こすと考えられた。一方で、性ホルモンの1種テストステロンは降河行動の発現を抑制することが知られている。そこで、水温低下刺激に対する感受性大きさが降河行動発現の有無につながっているとの仮説のもと、①水温低下に対する感受性は降河型が河川型より高いか否か、②この感受性に対するテストステロンの影響、を検証するため2つの実験を行った。①スチールヘッドトラウトとニジマスで水温低下時の体温低下を比較するとともに、②スチールヘッドトラウトのテストステロン投与魚と未投与魚でも同様の比較を行った。30分間で3 ℃の水温低下刺激を与えると、①スチールヘッドトラウトの体温はニジマスよりも早く低下したが、死魚ではこの差はなくなった。また肥満度は、スチールヘッドトラウト(肥満度1.24)の方がニジマス(同1.52)よりも小さかった。②テストステロン投与魚の体温は、未投与魚よりも緩やかに低下した。これらの結果から、降海型は水温低下刺激に対する感受性が河川型よりも大きいと考えられ、この差は、肥満度が小さい、血中テストステロン量が低い、といった降海型の形態的・生理的特性に起因すると示唆された。この感受性の大きさが、降河行動の発現の有無につながっていると考えられた。また、コイ(肥満度2.33)、ウグイ(同1.47)、およびウナギ(同0.17)間で同様の体温比較を行ったところ、コイはウグイよりも緩やかな体温低下を示した一方で、ウナギはコイと同等の体温低下を示した。これらの結果は、魚類の体温変動には肥満度などの物理的要因と、ホルモンなどの生理的要因の双方が関わっていることを示唆している。第3章では、バイオテレメトリー手法を用いて本属の遡上行動の調節機構の探索を行った。2010~2012年に宮城県広瀬川にて、サクラマス(主に河川内のみで降河・遡上回遊を行う退行型スモルト)に超音波発信機を装着して、河川内での行動を追跡するとともに、種々の外部環境因子を観測することで、遡上行動の発現に影響を及ぼす環境要因を調べた。2010年は5尾中3尾、2011年は15尾中10尾、2012年は12尾中7尾から遡上データが得られた。これらの個体は、いずれも放流後、放流地点よりも上流へと遡上していた。遡上行動の大半は6~8月上旬にみられ、データが示す平均および最大遡上距離はそれぞれ7.9 kmおよび17.0kmだった。実験魚の受信日時は、降雨に伴う河川水位の変動時、水温が24~25℃を上回るようになった直後、満月時のいずれかと重なっていたことから、これらの環境条件により遡上行動が促進される可能性が考えられた。今後、検証実験等によってさらなる要因の抽出を行うことで、遡上行動の調節機構の詳細が明らかになると期待される。第4章では、本研究で示唆された、降河および遡上行動の調節機構に関する知見をまとめるとともに、これらの資源増殖への応用について検討した。降河行動に関しては、降海型は水温低下刺激に対する感受性が河川型より高く、この刺激による血中コルチゾル量上昇をきっかけに降河行動を発現すると示唆された。そのため、スモルト放流では、放流時に魚に対して水温低下刺激が加わるような水温環境、放流時期、および放流時間帯の選定が効果的と考えられる。一方、遡上行動の発現には河川水位変動、水温上昇、月齢が関与すると示唆された。自然繁殖・保護に向け、親魚の遡上行動を適正に発現させるためには、水温や月齢を考慮した河川流量の管理が望ましいと考えられる。本属の降河および遡上行動には、いずれも水温の関与が示唆された。また、これらの間の海域での回遊行動は、生息水温が常に一定の範囲内に収まるように行われることが示されている。そのため一連の通し回遊行動は、水温変動刺激に対する行動的体温調節、すなわち適水温からの逸脱刺激に対する逃避行動により成り立っている側面があると考えられる。}, school = {横浜国立大学}, title = {タイヘヨウサケ属の降河および遡上行動調節機構に関する行動生理学的研究}, year = {2013} }